文学座本公演『セールスマンの死』その1

文学座本公演『セールスマンの死』in あうるすぽっと(2/22)

作  アーサー・ミラー
訳  酒井洋子
演出 西川信廣


ウィリー・ローマン(たかお鷹さん)は、セールスマン一筋で生きてきた男性です。
でも彼には家族には言えない抱え込んだ秘密がありました。

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完済間近の家のローンやローンで購入した電化製品とその修理代、保険金の支払い・・と
何も知らない妻・リンダ(富沢亜古さん)から次から次へとお金の要求を受けるウィリー。
けれどリンダもウィリーに対して漠然とした不安を抱いています。
それは自殺未遂の痕跡を残すホースの発見・・。
そんな折、二人の息子ハッピー(林田一高さん)の兄で長男の息子ビフ(鍛冶直人さん)が
久しぶりに帰ってきました。

第二次世界大戦後のアメリカ。
時代は高度成長時代、いけいけどんどんで煽るような宣伝に踊らされて
自分の給与に見合わない大きな電化製品をローンで購入するのが
時代に煽られるような小市民として当たり前の大量生産、大量消費の時代の真っ只中・・
そこに大きな勝ち組と負け組が存在したとしたら
負け組代表の横綱が、悲しいかなローマン家の皆様・・。
何年にも渡るローンを払いながら修理代も払わなきゃいけない冷蔵庫。
家のローンを払いながら、周辺の環境の悪化に嘆く悲しさ・・
そして、高校時代アメフトの選手で将来を約束されていたはずのビフが
転落していく人生・・
嘘やごまかしで虚栄をはって生きていくことの大きなしっぺ返しに対抗する処置が
自らの命と引き換えにしなくてはいけないなんて・・
プライドというものが、個人商売のようなセールスマン稼業の
ウィリーにしてみたらどんなに大事なことだったのか・・
差し出される手をどうして繫げなかったのかと思うと
本当にたまらなく悲しくなってしまいました。

ストーリーは、ウィリーの語る言葉にインスピレーションされた
過去の出来事の断片が、フラッシュバックしてくる作風になっていて
その一コマ一コマで、過去と現在を行き来する俳優陣の
見た目の扮装だけでなくて、その細やかな空気まで変える質感に、かなり驚かされた事と
ウィリーの哀しい出来事の後のシーンが、死者の魂を悼む場面が新鮮な趣向で
その哀悼の言葉が、家のローンが完済したとか、なんか滑稽な感じもするのですが
なんか思い描く人生に対して、現実は中途半端に終わってしまったウィリーの死の代償で
成し遂げた感が伝わってきて、これまた切ない・・
石が頭に落ちてくるような、がーんとしたお芝居でした。

全体的にほの暗い舞台で、三方向に囲まれた壁は高くて圧迫されそうで・・
逃げ場のない無期質感が感じられて、その中で、四面楚歌で囲まれてしまい
薄い光を背に受けながら崩れていくウィリーを演じられる
たかお鷹さんのすごさに脱帽です。

贅沢を言わせてもらえるならば
アトリエの狭くて濃密な空間で、がっぷりと喰らいついて、演者の表情を間近に受けて
この作品を観たいと思ったのでした。

2/22(金)~3/5(火)
by berurinrin | 2013-02-24 00:07 | 文学座観劇感想