文学座本公演『エゲリア』その1

文学座75周年記念公演『エゲリア』その1 in 吉祥寺シアター(9/8,17)

作  瀬戸口郁
演出 西川信廣

新聞の連載漫画で一躍時の人となった岡本一平さん(大滝寛さん)は、忙しさにかまけて
家庭を顧みなくなっていました。
帰ってきては、激しい感情の衝突を繰り返す二人・・
そんな生活・・夫に絶望したかの子さん(吉野実紗さん)は、神経衰弱にかかり、
精神病院に入院してしまいます。
初めてかの子さんの苦しみを知った一平さんは、自らを省みて、
今後はかの子さんに捧げる人生を選ぶのでした。

5年前に、神奈川県立青少年センターに於いて、瀬戸口さんの脚本&西川さん演出による
「五大路子さんによる詠み芝居『エゲリア』」が上演されました。
当時の感想がここリーディング形式でした。
かなりの完成度の高い作品だと思いましたが、あの時よりも数倍(笑)
かの子さんのスケールが大きくなった気がします。
瀬戸口さんの描くかの子さんは、自由奔放で超わがままで、世間の常識をものともせず
常に台風の目のような存在だけれども、なんともいえない無邪気さや愛らしい雰囲気を漂わせているのです。
身内や近くにかの子さんのような人が居たら、かなりメンドクイ・・f(^_^;)
でもね、女性なら誰でもが、かの子さんのような生き方に一種の憧れにも似た感情を持ってるだろうし
男性でも多分、かの子さんのような女性から愛情を注がれてみたいなんて
心の底では思っちゃうんじゃなかろうかと、思ってしまうのです。
かの子さんのように愛情も仕事も、全力で駆け足でぶつかっていく人生
ついつい失敗した時を考えてしまう自分は、
どうにもこうにも憧れの範囲から出れないもんです。

さて、そんな舞台を好き勝手に駆け回る、周りを振り回すかの子さんを演じられたのは、吉野実紗さん。
泣く時は、なりふり構わず号泣し。笑う時は、大きく口を開けて笑う・・
喜怒哀楽の振り幅を、まるでメトロノームの大きな振り子のようにころころ変わる表情。
観ていて、なんて楽しい女優なんだろうと思いました。
かの子さんが、文芸誌に酷評をされて、うなぎを食べて力をつけようとする時の拳を振る姿が
たまらなくツボに入っておりました。
そんなみしゃは、舞台では大胆な女優さんですが、
普段は心細げにじっと人の目を見るかなり可愛い女の子なんです。
前回、『三人姉妹』では、ブローゾフ家の長男アンドレイ(櫻井章喜さん)
の妻・ナターシャを千田美智子さんとWキャストで演じられてました。

かの子さんの夫・一平さんを演じられたのは、大滝寛さんです。
実際には、ありえねー(笑)あっ、でも実際にはあったんですよね(笑)
想像の域を超す、かの子さんとの関係ですが、なんか自然に受け止められちゃうのは
一平さんのかの子さんに対するまなざしが、時に異性に対する愛情、
時に子供に対する慈愛に満ちたまなざしであったりと
その場その場で変化する姿・・
一平さんにとって、女性の総称の全てがかの子さんであったのかもしれません。
まさに、かの子さんが言ったとおり“パパの「エゲリア」”。
人から見たらこっけいに映るかもしれない一平さんの懸命な献身。
こんなに人に尽くせる愛情を持てること、完璧な信頼を得ることの幸せを感じさせてくれました。
そんな大滝さんは『長崎ぶらぶら節2012』の古賀十二郎先生。
男性の魅力たっぷり魅せて下さいました。

「芸術は爆発だぁ~!!」と、両腕を上に広げ首の筋をきぃ~っ(笑)
在りし日の岡本太郎さんを彷彿しましたねぇ~
そして「なんだこれは」この台詞・・当初なかったそうですが
演じられた佐川和正さんが、ぜひ入れたいと瀬戸口さんに申し入れたアトリブだったそうです。
ちょっと風変りな家族構成の中で、常に怒りのオーラなう(笑)
でもちょっとマイナスのオーラには見えなかったんですよね~
きっとまた違う不思議な人格構成が育まれていったのだと思いました。
そんな太郎さんを演じられた佐川さん。本当にここ最近、ぐっと演技の幅が広がり深みが増した気がします。
観ていて今度は何をやってくれるんだろう♪とわくわくさせてくれる俳優なのです。
前回は、『 MEMORIESテネシー・ウイリアムズ[1幕劇一挙上演]』の中の『ロンググッドバイ』
思い出のアパートから引っ越しをするジョー(亀田佳明さん)を見送りに来た
お調子者の友人のシルヴァを演じられました。

かの子さんが神経衰弱になった時にお手伝いに来てくれたのは、妹の大貫きんさん。
その後、岡本家の住み込んで、かの子さんのお世話をというか、お手伝いをしていましたが、
かの子さんの恋人で、体の弱い堀沢芳雄さん(駒井健介さん)の世話をするうちに
かの子さんの嫉妬を買ってしまい、実家に戻され有無を言わさずに嫁に出されてしまいます。
演じられたのは、増岡裕子さん。
かの子さんの姉妹とは思えない(笑)当時の日本女性の代表のような佇まいが、ものすごい対比で
描かれていて、爆走するかの子さんに潰されてしまうきんさん・・ちと可哀相でした。
そんな増岡さんは、『トロイアの女たち』ではコロスの一員で、敗戦国の悲劇を嘆く女たちを演じられました。
また、自主企画『ボーイング=ボーイング』では、ドイツ人のスッチ-(笑)ジュデットで
抜群のコメディアンヌ振りを魅せてくれました。なかなか今後も興味深々の女優なのです。

かの子さんの生き方を変えた人・・あるがままに生きることを由と諭したのは
田原石禅師演じられたのは、鈴木弘秋さん。
かの子さんの生き方に太鼓判を押しちゃった張本人(笑)
短い出番ではありましたが、今後の岡本さん夫妻の道しるべを示す重要なシーンだけに、
鈴木さんが演じられる禅師は印象的になりました。
そんな鈴木さんは、『MEMORIESテネシー・ウイリアムズ[1幕劇一挙上演]』で
四人組みの引っ越し屋さんの中で年長者を演じられていましたが、
やっぱり細やかなしぐさが印象に残りました。

一平さんの漫画の方の出版社の担当編集者は二人。
きっと一番被害を被っただろうと思われる同情すべき人物たちです(笑)
大森さんを柳橋朋典さん、
川井さんを南拓哉さんが演じられました。
柳橋さんは、『三人姉妹』ではいつもカメラを身に着けてる
人の良い陸軍少尉フェドーチクを軽快に演じられました。
今回文学座本公演デビューを果たしたのは南さん。
実は、あまり南さんを観る機会がなくて、ごめんなさいf(^_^;)
ただ・・研修科時代『萩家の三姉妹』で、茶髪でガテン系なヤロー(笑)系の池内徳次さんを演じられた姿が、
とても気持ちよく拝見できたのが印象的でした。

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次回に続きます

9/7~23まで in 吉祥寺シアター

さて、待ちに待った『モジョミキボー』あの二人が帰ってきます!
詳しくは→リンクしてるモジョミキボーのブログ
by berurinrin | 2013-01-01 22:32 | 文学座観劇感想