朗読座プロデュース第一回公演『日本の面影』

朗読座プロデュース第一回公演『日本の面影』 in 俳優座劇場(7/12,7/20)

作  山田太一
演出 鵜山仁

日本に来日したラフカディオ・ハーン(草刈正雄さん)は、
松江で英語教師となります。
そんなハーンさんの身の回りの世話をするのはセツさん(紺野美沙子さん)
日本に魅せられ、セツさんの語る日本の昔話に魅せられ、
温かい松江の人たちと友情をはぐくみ、ハーンさんは、セツさんと結婚します。
冬の寒さが厳しい松江から、家族と共に熊本に移り住んだハーン一家。
ところが近代化の流れが押し寄せ、ハーンさんの思い描く日本の美しさは
失われつつあります。

小泉八雲さんといえば
誰もが知っている怪談話「耳なし芳一」「雪女」。
とても恐ろしいお話なのですが、一方的な怖さだけじゃなくて、
妖怪や幽霊にも私たち同様の感情があって、悲哀の上にあるお話・・
そして反対に人間のおろかしさや滑稽さが浮き出てきちゃう気がします。
でも、小泉八雲さんという人物について知っていることは以上・・終了(苦笑)
相変わらず勉強不足でf(^_^;)

朝の空気の中、ハーンさんが耳に入ってくる様々な音をセツさんに
聞きながら新鮮に嬉しそうに反応する姿を見て
なんか子供の頃を思い出しました。
幼少時代、江ノ島の神社につながる参道で
土産物を営んでいた祖父母の家によく泊まりに行ってました。
祖父の土産物屋の向かいの老舗旅館は、祖父の兄弟が経営し
江ノ島神社の総代を務めていた祖父の後ろをくっついて歩きまわっていただけに
毎回、参道の入り口から両脇に並ぶ土産物店を左右に挨拶をしながら、たどり着くという
なんせ初孫だったので、島の皆さんに可愛がってもらった記憶があります。
どのお店もほとんどが1階が店舗で、その上が住居スペース。ベランダの下は参道。
夜は泊り客の下駄の音がカランカランと響き、
夏の朝は、かき氷用の氷を運ぶリアカーと氷を切る鋸の音がシャッシャと響き
休みなく鳴く蝉の音や、夕方なぜか音楽が放送されていたっけかなぁ「エリーゼのために」♪
お店で、作っていた売っていた「夫婦饅頭」の蒸かしたばかりの甘い香り
そのあんを作る小豆と砂糖を混ぜ合わせる機械の緩やかな音・・
これが私の日本の面影なのかも・・
今の江ノ島は、小洒落た茶屋が出来て、スパや名物い○焼きなんて・・いつから?!
食堂がレストランに変わって、日用品のお店がサーフショップに変わっていたし

日本が大好きなのに、日本の食事も大好きなのにお肉の美味しさが忘れられない
それを残念がるハーンさんの人間らしさ
セツさんの記憶で語る昔話をわくわくしながら聞くハーンさんの無邪気な姿を見ていたら
こんなに無条件に日本を愛してくれたハーンさんに対して
私たちは、なんてことをしてしまったんだろう・・
そう思ったら、自然に涙が出てしまいました。
草刈さん演じられるハーンさんが、優しくて、異国で出来た家族に対して温かくて、
一つしか見開くことの出来ないまなざしが、きらきら煌めいていて
胸にぐっときました。
そんなハーンさんを傷つけてしまって、ごめんなさい
そして今、3.11の震災以来、加速した近代化に対して
より便利さを求めてしまった私たちが
大きなしっぺ返しを受けています。
まさにハーンさんの憂いていた事が現実になってしまったのでした。
日本を愛してくれたハーンさん以上に、私たちが日本を愛して
私たちの日本の面影をもう一度蘇らせらることができたら・・
「美シイ。ヨイ」と、どこからかハーンさんの声が聞こえてくるかもしれません
このタイミングでこの作品に出合えたことに感謝しています。

さて、文学座からは、堅物でかくしゃくとしてなんか愛らしい(笑)
セツさんの養祖父・稲垣万右衛門さんを演じられた
金内喜久夫さん。
人間関係もまたハーンさんにとって美しい日本の姿だったのかもしれませんね。
そんな事に思いを馳せるほど金内さんの姿は、とても素敵でした。

ハーンの父・チャールズと熊本時代の同僚・佐伯信孝さんは、石橋徹郎さん。
どちらもワンシーンではありますが、ハーンさんにとって厳しい人物でした。
佐伯さんというのは、実際の人物だったそうです。
ハーンさんに対して近代化の必要性を訴える佐伯さんの言葉は、
まるで自分に言い聞かせているような理不尽さを感じてしまいまして・・
実は、本当はもしかしたら時代が違えばハーンさんの良き理解者になっていたかも
しれない人物だったのかしら・・と思ったのでした。

松江時代、ハーン先生にお肉を食べてもらって
元気になってもらおうと画策する生徒さんら
小豆沢さんは、今年、研修科を卒業して新準座員に昇格された宮内克也さん。
研修科二年生の時に『思い出のブライトンビーチ』にご出演。
野球好きなユージーンを演じられました。
身近で屈託のないユージーン少年を演じられた時の宮内さんは
とても無邪気だったのに
ここ最近、彼の芝居の表情が同じに見えます。
研修科時代のリーディング『マクベス』を引き摺っちゃってるのかなぁ~
ユージーンと小豆沢さんは、国も教育も育ちも違えど年齢が近いはず。
あの頃の素直な笑顔をまた舞台で魅せて欲しいです。
もう一人は、研修科二年生の渡辺大海さん。
アトリエの会『 MEMORIESテネシー・ウイリアムズ[1幕劇一挙上演]』で
運送会社の社員を演じておられました。

正面のふすまを開けると、真っ黒の紗幕の先に
美しい松江の風景がまるで見えるかのようなセット。
両側の小さな町並み・・左右の渡り廊下の先を想像してしまう美しい舞台でした。
セツさんの側で息絶えるハーンさんのラストの先に、
さて、ハーンさんの気持ちをどうあなたは考えますか?と
思わず胸にぐっと刺さる言葉を投げかけて、がーんとやられた初日の私でした。
そんだけ、わたしの感情のど真ん中に入ってくる作品を作って下さる
そう・・演出は、鵜山仁さんなのでした(*^_^*)

二回目に拝見した時は、丁度、英語字幕のある日で、
外国の方がちらほらと客席でお見かけして
ちょっと不思議な感覚がありましたが、字幕も舞台の邪魔にはならなかったのですし、
何より客席から楽しまれてる感じが伝わってきました。
いいアイデアですよね。
通常の芝居にも、字幕を導入する事ができたら、日本にいる外国の人たちに
芝居を楽しんで頂けるかもしれないですよね

7/12(木)~7/25(水) in 俳優座劇場
by berurinrin | 2012-08-13 23:11 | 観劇感想