こまつ座第86回公演『闇に咲く花』

こまつ座第86回公演・紀伊國屋書店提携
『闇に咲く花』 in 紀伊國屋サザンシアター(8/16)

作   井上ひさし
演出 栗山民也

終戦後昭和22年の夏・・・。
愛嬌稲荷神社の神主さん・牛木公麿さん(辻萬長さん)を中心に
生きていく為に、戦争未亡人達とお面作りと闇米を得ることに精を出す日々。
そんな時、息子・健太郎さん(石母田史郎さん)の幼馴染の稲垣善治さん(浅野雅博さん)
が戦地から何とか無事に戻ってきました。
健太郎さんの戦死の報を受けて、思い出を語るうちに
ひょっこり健太郎さんが現れました。
これで穏やかな日々が戻ってくると誰もが思った時
GHQ法務局に勤める諏訪三郎さん(石田圭祐さん)が現れます。

私の母の叔父さんは、フィリピンのモンテルパ刑務所でB級戦犯として処刑されたそうです。
映画俳優のようにかっこよかったと、母は言っていました。
母が中学生の頃、本屋さんで雑誌の立ち読みをしていた時
偶然見た雑誌の特集記事で、叔父さんの英文で書かれた戦犯の遺書が記載されて
びっくりした母は、叔母さんに急いで電話で知らせたそうです。
誰が載せたのか?叔母さんも知らなかった英文で書かれた遺書・・・。
異国で死んでいった叔父さんは、英文で書けばきっと親族に届くと思ったのでしょう。
どんな形であれ届いた遺書。
私が生まれた時にはすでに故人であった叔父さん
遺書を英文で書くなんて、なんて粋な人なんだろう・・と、思っていた私。
そんな薄いもんじゃないという事を、この作品で叔父さんの姿と重ねて
熱く熱く胸に突き刺さってきました。

戦争犯罪の言葉の重さ。
当時、現地の方にひどい事をした兵隊さんもいたかもしれません
が、まるで人間狩りのような、後付のような罪状で亡くなった兵隊さんの無念さ。
残された家族たち・・・。
もう・・本当に戦争なんて嫌です。

文学座からは、神経科医の先生を演じた浅野雅博さん。
浅野さんが語る野球少年時代のお話・・砂ぼこりにまみれたユニホームとか
ボロボロのグローブが目に浮かんできました。
青年のように、きらきら目を輝かせて語ると思えば、一気に老いた雰囲気の中
瞳だけは、ぎらぎらと狂気の輝きをみせたり・・
投球のように一言一言、魂がこもった言葉の温度の熱さ・・
激しい時代を生きてきた背負ったものの大きさ・・浅野さんの背中に浮かんでは消えて
いくものを確かに感じました。

戦争未亡人の田中藤子さんは山本道子さん。
こまつ座初参加だったんですね。
いっぱい辛い思いをして生きてこられたのに、ほがらかな姿が
とっても素敵な藤子さんでした。

登場して欲しいけど、登場されると悲しくなるのは憎まれ役のGHQ法務局に勤める
諏訪三郎さんを演じられた石田圭祐さん。
血も涙も無いような怖い存在です。でも最後は、やっぱり日本人だったんだなあ
って諏訪さんの隠れていた人の良さがじんわり溢れてきたのは
石田さんのほわんとしたやわらかな雰囲気ならではですね♪

天国から地獄へ突き落とす・・戦犯とはなんでしょう?
罪なき青年の生き様と彼を取り巻く人たちの姿が瑞々しい程温かいです。
ぜひ観ていただきたい作品です。

8/15(金)~8/31(日) in 紀伊國屋サザンシター
by berurinrin | 2008-08-16 22:10 | 観劇感想