こまつ座第101回公演『イーハトーボの劇列車』

こまつ座第101回公演『イーハトーボの劇列車』 
                                                      in 紀伊國屋サザンシアター(10/6、10、14、23)
                   in 岩手県民大ホール(11/28)
作  井上ひさし
演出 鵜山仁
美術 島次郎
照明 沢田祐二

今や死出への長い旅路に赴く農民たちが、見守る中
宮沢賢治さん(井上芳雄さん)は上野に向かう電車に母・イチさん(木野花さん)と乗車しています。
妹・とし子さん(大和田美帆さん)が急病で倒れ見舞うためでした。

舞台はアンドロメダ星雲のイメージ…だそうで勾配のある楕円の回り舞台になっていました。
過去何度が再演をされた井上作品として名作とうたわれいる作品です。
というか井上さんの作品はすべて名作なのに、あえて名作といわれるって
どんだけすごい作品なんだろう?!と思いながら初日の客席に座ったわけですが
…すごかった…すべてが…
客席から動けないというのは、こういうことを言うのかと
あえてセリフにないのに、たくさんもの生に対する執着のメッセージ。
柔らかな感情の中に心をぎゅっとつかんでくる思いの深さ

出てくる登場人物は、みんなぶきっちょで、ちょっとした足の踏み間違え、横道をふらっと
ほんとささやかな迷い
そんなこんなで思い描く未来とは、まったく違う不幸を背負ってしまって…
そんな矛盾だらけの人生ばかりシャボンの泡の様に浮かんでしまいますが
なんと温かい眼差しに満ちた作品なのでしょうか。
井上ひさしさんの宮沢賢治さんに対する愛情が伝わってきて
優しい気持ちと現実の厳しさ…これまた矛盾…
こんなに心が引っ張られる作品の強さ本当にすごいことだと思いました。

何度も上演されているそうですが、わたしは全くの初見で
井上麻矢さんや制作のSさんから
色々教えて頂きました。
本当に井上さんは宮沢賢治さんが大好きで
また『父と暮せば』の英訳で有名なロジャー・バルバースさんも大の宮沢賢治さんファン。
宮沢さんのお話で盛り上がるお二人だったそうです。
今回が鵜山さんの初演出。その前は木村光一さんが演出されていたそうです。
セットも前回は、場面事にしっかり作られていたそうで、
今回の幻想的な作りにはなっていなかったそうです。
前作では、ラスト車掌さんが、思い残し切符を一人一人客席に配るように渡していたそうで
今回は、絶対受け取れ!と激しく投げつけるように切符を配る車掌さん(みのすけさん)の演出だと
その違いを教えて頂き、鳥肌が立ちました。
「それがきっと鵜山さんの思いなんでしょうね」って麻矢さんの言葉に泣きそうになりました。
初日乾杯では「「思い残し切符」は一枚の客席に落ちていませんでした」とご報告があり
みなさんが、彼らの思いを受け取って帰られたということですね。

さて文学座からは、人買いでサーカス団の団長さん神野仁吉さんと小説家の前田六介さんを
演じられた田村勝彦さん。
短い出番ですが、田村さんが出られると空気がぎゅっとぎゅっと変わりますね。
普段は穏やかで柔らかい声をお持ちの田村さんが、怒った姿がまじ怖い(><)
初日に「(そのすごさに)やられました」と伝えしたら
「本当に面白かった?不安でさぁ」と笑顔で答えて下さった田村さん。
「緊張したよ」って、ベテランの田村さんでも緊張されたそうです。

こまつ座初出演で、がんばっちゃったのは、三菱の社員で宮沢賢治さんとライバル的(?!)な存在
ミュージカル界のスターを前に歌って踊っちゃって、やっちまいました状態の石橋徹郎さん♪
「髪の毛にこんなに油つけられちゃってさぁ~それも前半と後半で分け目違うし」と
「髪大事じゃん」いやいやねぇ~みたいな(笑)
でも、おおらかな石橋さんと第一郎さんのキャラが重なっていい味でてましたよねっ!うん
素直でおおらかで、とっても愛らしい第一郎さんでしたが
ラストでは、車掌さんに会っても「思い残し切符」を渡されることがなかったという
あ~この人も死んでしまうんだぁ~と切ない気持ちになったのでした。

そしてこまつ座初出演で舞台デビューだったのが、人買いに買われた娘と小説家の前田六介さんを
尋ねにきた雑誌編集者を演じられた鹿野真央さん。
ほっぺを赤くした幼い女の子が、場面毎に女性として変化していくさまが、表現されていましたね。
当初、着物をはだけて隠していたお餅を出すシーンで、賢治さんたちが現れて
恥じらいながらさっと着物を直していましたが、後半になると、恥じらうことなくゆっくりと襟を直している
演出に代わり、その間の女性としての生き様が見えた気がしました。

それにしても主演の宮沢賢治さんを演じられた井上さん。
その前に東宝ミュージカル『二都物語』が初めましての井上さんなのでしたが
あんな大きな帝劇で主役を張れるかと思うと、サザンの会場でも自然なたたずまいをみせる事ができるという
すごいなぁ~と、改めて、この人はこういう声を持った人なんだ、こういう表情を
されるんだと…井上さんの作品に主役を演じられる若い層の俳優がここにもいらっしゃると
思うと、とても頼もしく楽しみですね。

ラスト死出の旅立ちの列車に乗り込むさまざまな時代を生きた農夫の人々
思い残し切符を手渡し空を見上げて盆が回る姿は、メリーゴーランドのように美しく
その顔はすがすがしい表情をされています。
死後の世界のことはわからないけれど、あの表情から
そんなに悪い世界じゃないかもしれない、でもそれはもっと先のことだと
私たちはすべきことを済ませてから…
目には見えない「思い残し切符」を握りしめて思うのです。

10/6(日)~11/17(日) in 紀伊國屋サザンシアター
11/23(土)、24(日) in 兵庫県立芸術文化センター
11/28(木)in 岩手県民会館
11/30(土)、12/1(日)in 川西町フレンドリープラザ






by berurinrin | 2014-01-06 01:37 | 観劇感想