2010年 08月 16日
こまつ座第90回公演『父と暮せば』
作 井上ひさし
演出 鵜山仁
広島に原爆が落ちて3年後。今にも崩れそうなこの家に一人で住んでいるのは
美津江さん(栗田桃子さん)です。
図書館に勤める美津江さんは、ある日恋をします。
けれど原爆によって愛する人たちを尽く失った美津江さんにとって
生き残ってしまったという罪悪感から、恋心も疎ましくその心を固く閉ざしがちです。
そこへ亡き父・竹造さん(辻萬長さん)が現れます。
娘のために、娘の恋の成就のために・・・
今年初の愛しの鵜山さん追っかけ遠征は、山形県は米沢市・川西町フレンドリープラザです。
この川西町(旧小松町)は、井上ひさしさんが生まれた場所でもあり、そしてこの日は終戦記念日。
いつかこの場所で、鵜山さんの演出の作品が観たいと、心ひそかに願っておりまして
お盆休みでもあって、終演後アフタートークもあると聞いて、これは行くしかない状態だったのです。
後日、県民栄誉賞の授賞式も行なわれるということで、ほんと盛りだくさんの公演でありました。
「きっと雨だから」と周りに言われましたが、わたしは強晴れ女なのです(笑)
一泊二日の間、不安定な天気ではありましたが、やっぱ傘知らずでありました。
最寄の駅は羽前小松駅。
なんとものどかな駅でした。
なんとも情けないほどの拙い字ですが、駅から川西町フレンドリープラザが見えます。
で、てくてく歩いて目的地まで。
この会場には、隣接して図書館があるのですが
その図書館の中に、井上ひさしさんの蔵書が閲覧できる「遅筆堂文庫」があります。
戯曲や演劇雑誌のほかにありとあらゆる書籍がありまして、料理本までありました。
で、井上さんご自身で付けられた付箋やメモもそのままの状態で、触ってみることができます。
ほんとすごいすごい本の量に圧倒されます。
図書館では、井上さんのコーナーが作られていました。
そこには『父と暮せば』の上演までの構想メモや筋立て表が展示されていました。
井上さんの自筆年譜も・・第一案は、新聞記者の男性が主役だったそうです。
題名も全く違うものでした。それから、美津江さんが実は亡くなっていたとか
色んな段階を踏んで『父と暮せば』のあの世界が生まれたんだなぁ~と
そして、井上さんのたくさんの字。全てが字で埋め尽くされていました。
本当にすごい光景でした。
受付は、地元の高校生の方々がお手伝いされていて
チケットをもぎって下さる時に、元気に挨拶をされる姿が、りりしくて可愛くて素敵でした。
観客もいつものこまつ座の公演の客層と違って若い方の姿が目に入ります。
幼いお子さんの姿もあって、地域に愛されてる劇場だと感じました。
お芝居は、「生きてしまって申し訳ない」と自らの幸せを頑なに禁じようとする美津江さんの
心を、解きほぐそうと懸命なおとったんの姿。
おとったんと美津江さんの幼い頃からそうであったかのような、温かい情愛のやりとり・・
そして、美津江さんがおとったんに、親友の昭子さんの亡くなった姿を語っている時に
ふと、舞台真ん中より少し後方の私の席の後ろの方から
「そんな・・・」と、思わず絶句して言葉に出てしまった声が聞こえてきました。
そのつぶやきに、わたしも思わず涙の上にまたまた涙・・
本当に「そんな・・」ですよね。
絶対、あってはならない死の形です。
昭子さんだけでなく、お友達の非業な最後の数々、おとったんの最期
たくさんの重荷を背負ってしまった美津江さんが、それらを乗り越えようとする姿のけなげさ。
芝居のラスト。やって来る木下さんを家の外に出て待つ美津江さんの顔に夕日が当たり
輝くばかりにこぼれる笑顔の美しさに感動のとどめの涙を堪える事が出来ないのであります。
大好きな作品です。
涙涙の感動に包まれた終演後、アフタートーク、井上ひさしさんの県民栄誉賞授賞式が行なわれました。
それはまた次の機会にUPします
by berurinrin
| 2010-08-16 22:32
| 観劇感想