新国立劇場『鹿鳴館』オペラトーク<その2>

司会進行の新井鷗子さんから
これまで沢山のオペラを演出されている鵜山仁さんに
「音楽的な時間の流れているオペラ」と「演劇的な時間の流れているオペラ」では
演出の違いはどうなんでしょうか?と質問がありました。
すると、鵜山さん
先ほど、池辺晋一郎さんが鵜山さんを「譜面の読める演出家!」と讃えておられましたが
「あれは、大嘘なんで(笑)」と否定されながら
「だから、音楽的な時間が流れるオペラ・・って、いうのが・・・よくわからないです。」
演劇的といってしまうと、口幅ったいとおっしゃりながら
「例えば、登場人物が二人、ぶつかり合いだったとしたら、どんな力関係が入ってきて、
どう関係が変わっていく・・そういう風にしてしか読めない」

と、例えば『鹿鳴館』の影山伯爵と妻・朝子さんの関係で話をして下さいました。
対峙してるこの二人に“間”があって、その“間”は、ただならぬ“間”であり
この“間”は作者の三島由紀夫さんが仕掛けてる“間”であり
池辺さんが仕掛けている“間”でもあるとおっしゃいます。
ある秘密を発見して、動揺して、なおかつ罵倒する。
この三つの違う感情が間奏の中に込められていて、そういうことを発展して
稽古場で共有していく事は、面白いし、遣り甲斐があるそうです。
「こんなに間奏があるんだけど、どうするの?」って
役者もオペラ歌手もそんなに相手の関係や間合いを考えてるわけじゃなくて(笑)
意外と自分の台詞をどう言おうか?!とか自分の歌が・・とか
「みんなじゃないですよ!!(笑)」と否定しながらおっしゃいますが、すごく面白い内容です。
とはいえ、それが演出の付け目だと(爆笑)
「お互いの関係、火花散るような関係・・ドラマになっていくことが基本中の基本」と鵜山さん。
そこのところを稽古場で共有できるっていうのは“間”が無いとできない
かなり長い“間=間奏”が、あるそうで、“間”が無ければ、お互いしたり顔で歌っちゃう・・
ですが、さすがにどうにかしないといかんと、彼らもお互い考えられるそうで
池辺さんに感謝してます(笑)と、鵜山さん。
なんか、楽しそうに語ってます♪

以前、池辺さんがあるオペラをご覧になられた時、登場人物が二人で、一人の方が
歌っているときに、もう一人の方が一回転をされたそうで??全く意味不明だったと・・
それは、全く演劇的な要素が現れていなかった
『フィガロの結婚』など有名な古典オペラにしても演劇的側面がよく描かれていると
池辺さんはおっしゃいます。
すると、鵜山さん「僕も稽古場で、こないだ歌い手さんに一回転してみて下さい」って言ちゃった(笑)
「でもそれは魂のピレエッタなんです。」と、続けて
「一回転してる間に世界が変わるわけですし、変わらなきゃいかん。
魂のピレエッタでもトリプルアクセルでも良いんですけど・・(笑)」
以前『イリュージョンコミック舞台は夢』で、舞台上で高田聖子さんが
一回転半されてました(笑)
稽古場で鵜山さんから「魂のトリプルアクセルを見せて欲しい」と言われたと、シアタートークで
おっしゃってましたね(笑)
あのシーンは、女心のもやもや感を払拭したシーンでした。

普通のお芝居の『鹿鳴館』の舞台では出来ないようなアクションが、ぼこっぼこっと出てくると
いいなぁ~と、おっしゃる鵜山さんに対し、「それは必然だと」池辺さん。

すると、新井さん
「オペラの作曲というのは、間合いとか、演出しながら作曲されるんですか?」
「隣に演出家がいるので、言いにくいなぁ(笑)」と、池辺さん。
オペラを作曲する事は、半分位演出してるようなものだそうです。
これまでのすべてのオペラもそうだとおっしゃいます。
で、ここで池辺さんからビゼー『カルメン』の演出の例話をして下さいました。

ビゼーの『カルメン』は、最後ドン・ホセにカルメンが刺されて死んで幕がおります。
ある演出家が新演出をしたいと思って、最後にホセが刺してもカルメンは死なずに
カルメンにホセを睨み付ける、たじろぐホセ・・そして二人の関係から・・・と、
けれどもカルメンが刺されたら音楽も終わってしまいます。
いくら演出したくても音楽が無い。
ということは、作曲したビゼーが、カルメンが刺されたら幕を降ろす演出をしていた。
それ以上、演出をする余地がない。
ほぉ~オペラのスコアは、そういう風にできちゃってる・・池辺さんのお話は、わかりやすいです。
そう思って、作曲をされていると、池辺さん。
で、残りの部分を演出されるのが、鵜山さん?!
「誠に失礼ながら、かつ不遜ながらそう思ってます(笑)」

「楽譜からおのずと演出のプランが出来上がっていくのですか?」と、石井さんに対して
鵜山さん「楽譜読めないんで、謎だらけ」とおっしゃる鵜山さん。
なんで「あ~あ~あ~」って歌うんだろう?ってよっぽど天気がよかったのかなって(笑)
この間を空間として取られたり、様々な池辺さんの表情を思い浮かべたりしながら
音として温度としてどうなのかなぁ?と、読み取ると同時に
プロンプターの方が、早々に全曲をご自身で歌われたテープを作って下さったそうで
それを聞きながら、解読というか、むしろ誤読して万華鏡の世界のようにいくのが
オペラの猥雑なところであり楽しいところとおっしゃっていました。
また、池辺さんの音楽で完結してしまうとオペラなんて大きな舞台は必要ないと。

池辺さんと鵜山さんの信頼関係があるからこその会話のやりとりが、ホントに素敵でした。

まだまだ続きます(^^)/
by berurinrin | 2010-06-28 23:33 | イベント