『鵺』シアタートーク<その3>

「わけがわからないまま演じていいんですか?」と、ちょっとお怒りモードのお客様から
「最初から最後までわからない!」うげっ、って感じですが・・

堀尾さんが「わからないもの(事も)芝居の一つの楽しみ方では・・」すると
お客様「未消化で不思議すぎます!」
「(村上さんに対して)わかりにくかったので、もっと練習して下さい」
なかなか手厳しいお客様で、堀尾さんが「怒られましたよ!(苦笑)」
堀尾さん「裕子さん!わからないまま芝居をしないでほしいと言われましたよ(苦笑)」
すると鵜山仁さんから
「多分ね、三つ目の役どころについては、さっきの話にも出てきましたが
男と女の因縁のバリエーションではあると思うんですが、それなりに納得して演る方はやってる
つもりなんですけど、そういう意味では、なかなか言葉にしにくいんですが
言葉で説明できれば、芝居をやらなくても良いわけですから・・
そういう意味じゃ、ニュアンスの違うわかり方をしてやってるわけです。
(納得して頂けないことに対して)それは残念でした。」
堀尾さんからも「わからない芝居って、山のようにあるわけじゃないですか
特に新国立は、わけわからない芝居ばっかりですよ(笑)
あんまりテーマ性がはっきりしていると押し付けがましく感じちゃうタイプ(堀尾さん自身が)
本音は・・役者さんもわからずに演ってんじゃないのかなぁ
フアフアした感じ、そこら辺はどうでしょう?」
アトリエの会の『結婚』のアフタートークの時にも同じような事がありましたが
芝居を自分の頭の中で固めないで、せっかく生のライブなんですから五感を通じて楽しむ
ゆったりとおおらかな気持ちを持っていた方が、意外な場面に心を動かされる・・
そんな芝居との素敵な出会いがあると思います。

ところで、と堀尾さん「わからないままで役を演じるジレンマってあるんですか?」

三津五郎さん
「理解できると言っても、書いた人とは違う。
完全に理解できる・・・って、それは自己満足」と、きっぱりおっしゃいます。
三津五郎さんにとって、全員が初めての中で、芝居もわかりにくく掴み処のない役どころですが
「わかりやすい芝居に出てればいいのかなと、それも違う」とおっしゃいます。
「昼夜9時間の芝居を5日であげる歌舞伎と違って
一ヶ月かけてやる面白さ、自分の意見だけじゃなくて
鵜山さんの意見があり、(作家の)坂手(洋二)さんの主張があり、こうじゃないと逆の解釈を
言う方がいて、それも日によって違う(笑)至福で大事な時間を過ごさせてもらえました」

「この作品の全般に、芝居の殺されたメスのトラツグミの怨念が
縦糸になって繋がっているように感じた」
そうおっしゃったお客様から、田中裕子さんに質問でした。

「(この作品が)怨念を一つのテーマで貫いているんじゃないか?!」
怨念・・という言葉に、嬉しそうに裕子さんにバトンを渡す堀尾さん
「こういう人に出会っちゃったら、どうしよう?!って思うような女性を演じたら
天下一品ですからっ」
裕子さんが、ぽつりぽつりと語る言葉が、水滴のように優しく響く感じで・・
ちょっと、とりとめの無い言葉、つーか上手くまとめられなくて(><)
ただ・・わたしが感じたのは
色んなもの・・例えば怨念も、暗いイメージになりがちだけれど、
目に見えないものの存在を自然に受け止めてナチュラルに生きていく・・
そんな答えだった気がします。
裕子さん「・・自分に期待しないのが良いんじゃないかと」
堀尾さん「田中さんって、上昇志向とかないですよね(笑)」
鵜山さん「(ぼそっと)向上心が無い(笑)」
堀尾さん「(裕子さんは)すぐ笑いますよね(笑)」
そんな堀尾さんが、裕子さんに鵜山さんの演出について質問されると
「今回、鵜山さん・・くんとは、文学座時代に同級生のような感じで
木村光一さんの(演出)助手をしてらしたりして、やっとご一緒にお仕事できたんですけど
『人の台詞は聞いていない』『自分の台詞は覚えていない』と、素晴らしい言葉を頂き(爆)・・」
「どうでした?30年前の演出助手の鵜山さんは?」BY堀尾さん
演出家として、初めて鵜山さんとお仕事をされたとおっしゃる裕子さん。
裕子さん「鵜山さんの“鵜”って、弟の鳥って書くんですけど、“鵺”の弟か!?って」(爆)
堀尾さん「なるほど~“鵺”みたいなトコありますよね~摩訶不思議な気が・・う~気が付かなかった」
妙に納得する堀尾さんに、鵜山さんがそろそろ反撃?!
「みなさんあるんじゃないですか?!大人になったら一つや二つ後ろめたい事が
おありでしょうから、それをあえて“鵺”と呼びたい」BY鵜山さん
今度は逆に、30年前の裕子さんを鵜山さんに質問する堀尾さんです。
「30年前のあの頃の裕子さんと今回仕事したわけでしょう?文学座からスタートして・・」
「何ていうのかな・・全然わかっていないようで、全部わかっているようで・・不思議な感じで
懐かしいというか、恥ずかしかった、照れくさかった・・大体会っていなかったし、仕事も何も
30年振り“あーそうだった、そうだった(笑)こういう芝居してた。こういう奴だった(笑)”と
だんだん思い出してきた。同級生ってそういうもんじゃないですか?!
同窓会をやったら“あーそうだった、そうだった全然かわってないなぁ”って
かつては癖だったと思っていたら、病気になってるよ(爆)」
すると今度は堀尾さんは、たかお鷹さんに
「如何でしたか?鵜山さんの演出助手時代は?」
おおっと嬉しそうな顔でおっしゃったのは、たかおさん
「(鵜山さんの)若い頃は、頭の悪い奴だなぁと(爆)
“そこは、たかおさん。ぐっぐっぐっと”って、感嘆詞でものをしゃべるから(笑)
やっと最近はボキャブラリィが増えた(笑)」
そして、またまた嬉しそうな顔で裕子さんに「仇をとってあげたぞ♪」
鵜山さんの過去がちらっと浮かぶ嬉しいお話でした。
ちなみに鵜山さんと裕子さんが、文学座でご一緒された作品は
1980年『結婚披露宴』(アーノルド・ウェスカー作)と翌年の『三人姉妹』(アントン・チェーホフ作)です。
豆知識でした(笑)
文学座から出版された『文学座五十年史』・・ぺらぺらめくってもじっくり読んでも楽しいですよ♪
必需品でございます(笑)

「とても楽しかった」とおっしゃるお客様から鵜山さんへの質問でした。
「小劇場がこんなに華麗に動くなんて、(新国立劇場が)10年目にして生きて動き出したなぁと
できればもうちょっと(芸術監督を)続けて欲しかった・・・3年間の監督として関わってきた事で
楽しかった感想を聞かせて欲しい」
会場からは、同意の拍手も起こり・・鵜山さんへのお客様からの温かいエールと感謝が
伝わってきます。
そんな中、堀尾さんがたかおさんに、感慨深そうに「鵜山さん、成長されましたね」
と、ここぞとばかりにかたおさん(笑)
「いやぁ、そういう質問にちゃんと答えられるかどうか?(笑)」最高です!かたおさん
ひとしきり笑った後、鵜山さんが答えられました。
「(監督問題について)これは、辞めたくなかったのに首を切られたっていうニュアンスを持たれている
かもしれないんですが、必ずしもそうではなくて・・今、色んな意味で仕事がしやすい状況であって
それはすっかり何も問題がなかったというわけではないんですが、
それはそれとして僕らの仕事って、もっとさらしものして頂けて良いと思って・・
こうやって評価をもオープンにして頂いて、キャッチボールできればいいと、
遅まきながらわかってきて・・
今一番楽しいのは、新国立劇場の特徴は、臆面もなく“みんなの劇場”と言えること。
もっともっと利用して欲しいし、サービスしたいと。。
恥ずかしいのですが、ここに来るまでの自分の考えにはなかった事で
今までは、蛸壺の中で好きな芝居を作っていれば良いって
確かに難しいレパートリーで簡単にストーリーだけを追っているものじゃなくて、へそまがりで
揃えたんじゃないんですが、新しいものをちらっとでも発信できればなぁと
その事が大変楽しいし、これは(監督を)続けて頂ければ・・・と、おっしゃって頂けるのは嬉しいのですが
むしろ、外に出ても大いに、この劇場に対して言いたいし、利用したいし、そういうことで
皆さんとお芝居を楽しめると良いなぁと」
・・・・ちょっと、じーんとする発言ですが、鵜山さんの眼差しは、先に先に進んでいるような
そんな穏やかで優しい口調で語られました。う~ん、かっこいいですぅ

「前監督の栗山(民也)さんも冒険的で、それ以上に冒険的で、新国立じゃないと観れないという
芝居を沢山観せて頂きました。」BY堀尾さん
「鵜山さんの内面が情熱的でいらっしゃる」と、おっしゃいます。
うん、うん私もそう思いますよぉ

やはり鵜山さんへの質問は続きまして
「期待以上に楽しかった」と、おっしゃるお客様から、「今シーズンの幕開きが
三島由紀夫さんの近代能楽集『弱法師』『』から始まって
今回は坂手洋二さんの作品で、近代能楽集にした意図は何でしょう?」

「今シーズン“劇場の中の劇場”というフィクションの隠しテーマで
坂手君に書いてもらう時に、彼のライフワークの一つであり、
世田谷パブリックシアターではシリーズで近代能楽集を坂手さん以外でもやっていて
色々絡みはあるのですが、図らずも劇中劇というか、ある種のテーマに出てきてくれて、
それも近代シリーズで、それに飛びついたという・・
実際やってみて、パンフレットにも書いたけど役者は“鵺”だねという
演出もスタッフも皆“鵺”だねって(笑)
夢を紡ぐ=鵺・・というか、大嘘をつくというか(笑)それらを行ったり来たりしながら
ハードな仕事だったけど、それなりに手ごたえがありました」

ここで堀尾さんが「あんまり好きじゃない作家とか、こういうタイプはNGとかってありますか?」
「それは難しい・・あるんだろうとは思うけど、意識したことはない・・」
うふふっ鵜山さんっば、大人な発言です(笑)

「全体にワケがわからない面があるけれど、不気味さを感じる」そうおっしゃった
お客様からコッポラ監督の映画『地獄の黙示録』を連想され主人公の大佐とたかお鷹さんが
結びついてしまって、より不気味さをましたそうで・・・
第三部の東南アジアが舞台ですが、その辺りに設定された意図とは?と
やはり鵜山さん♪に、ご質問です。

「設定したのは、どっちかというと(作家の)坂手洋二さんだけれども
おそらく水で繋がっているとか、トンネルで繋がっているとか、60、70年代には
唐十郎さんが、九州と朝鮮半島が坑道で繋がっている・・とかいうイメージを持ったれたりと
人間の心に中や(その奥)下にあるものが繋がっているんじゃないかって事があって
たまたま坂手君が、ベトナムに行ってある種の感銘を受けたという
水上パペットショーと町の喧騒と解放軍の作ったトンネルとそのアンバランスに
大変な衝撃を受けて帰ってきたって事があったんみたいなんですけど、
そいういう設定の時空を遡っても通じてるって・・・世阿弥が書いたとされる『鵺』の世界にも
ひたひたと流れていて、それを表現する芸能者にも坂手君が興味をもったらしく、
演劇人というか自由を時空に、あっちにいったりこっちにいったり、とっても自由に行き来できるんだけれども
実は何者でもない・・我々というか、象徴的に役者といってしまいますが
我々表現者の心意気というか怪しさっていうか、どっかイメージが繋がって、というような音で
自分の頭の中で括ってみたんですけど・・」
「人間、皆“鵺”みたいなもんですもんね」と、堀尾さん
「ことさら不気味に表現しようとしたわけじゃないんですけど、探っていくと一筋縄でいかない部分も
あって目に見えないものを、目に見えるようにするっていう作業を
僕らはやっていきたいと思っているので、もっと不気味なものを探して、ある意味いい気分にお耳に
お目に入るように努めたいと思います」

と、最後に一言づつ
村上淳さんは
「ありがとうにつきます」と言いつつ「まぁ発声の練習は、僕はしないっすよ(笑)」面白~い
たかお鷹さんは
「ワケわからい、ワケわからないと言っていますが、僕の中では解決しております。
解決しないままに舞台に立った事はありません。伝わるかどうかは知りませんが」
たかおさんの言葉・・わたしは、すっきり潔くてとても素敵です。
田中裕子さん
「暑い中、来てくださってありがとうございました」その笑顔で、思わずつられて笑顔になりそうです★
坂東三津五郎さん
「新国立劇場小劇場が大好きで、一度出たかったので出られて
鵜山さんを始め他のキャストの皆さんといい巡り合いをさせて頂き、いい時間を過させて頂いて
感謝しております」
歌舞伎の方らしく、綺麗な日本語を簡潔に語る・・・始終穏やかな雰囲気をお持ちの三津五郎さんでした。

「えーと、まだまだ新国立劇場は続きます。
秋には、なが~~~い(伸ばす伸ばす)芝居(笑)をやる事になってまして
宣伝よろしくお願いします」
お茶目な鵜山さんの言葉でシアタートークは終了となりました。

1時間を越えた今回のシアタートーク。
最後までお付き合いありがとうございました。
やっぱ、鵜山さん中心ですが・・いいんです。だって、いつだってかっこいいんだも~ん!
色んな意味で刺激をうけました。もっと、もっといっぱいわがままに贅沢に
舞台から発散されるエネルギーを感じられるような観客になりたいなぁ・・と
その為には、もっと色んなものを見聞きして日々ガンバロウ・・と、思うのでした。
by berurinrin | 2009-08-23 12:35 | イベント