文学座有志による自主企画・八十八の会『春子/かくて新年は』

文学座有志による自主企画・八十八の会『春子/かくて新年は』 in 文学座新モリヤビル1階(4/4)

演出 戌井市郎


『朗読劇 春子』 作:上崎 収

田所さん(吉野正弘さん)は、今年もある少女の上京を駅で待っていました。
広島から出てきたその少女の名前は、春子さん(清水馨さん)。
オペラ歌手を夢見て、女優として生涯を過した一人の女性の少女期のお話です。
春子さんは、生後二か月になった時、母・お千代さん(清水馨さん)と別れ養女に出されました。
そして継母・ヤスさん(山本道子さん)に何不自由なく慈しまれて育てられていました。
ある日、学校の教師から、唐突に養女である事を知らされて・・・

心の行き場を失った春子さんの悩みや葛藤を、春子さんの目を通してではなく
ヤスさんの言葉を通してドラマは進んでいきます。
ヤスさんを演じられた、山本道子さんの声は、春子さんへの愛情を惜しみなく温かく溢れ、
春子さんの苦しみを同じ痛みとして語る姿が、切ないほどに伝わります。
実の母・お千代さんに対するヤスさんの配慮も本当に優しくて・・じーんときました。
そんなヤスさんの言葉に耳を傾ける田所さんの懐の器の大きさも素敵!
とても清々しいドラマでした。

今回はリーディング形式での上演の為、着物姿の3人の出演者はイスに腰掛け
下手側には、杉村春子さんの穏やかな笑顔のお写真が置かれていました。
3人の後ろにはスクリーンがあり、ヤスさんの故郷の映像が時折映し出されます。
映し出される故郷の映像と、3人の出演者の方々の台詞が言葉として語られる時に
溢れ出すちりばめられた思いの情景が、ふあふあと綿帽子のように浮かびあがってきます。
拝見したこの日は、初日であり杉村春子さんの十三回忌、そして命日にあたるそうです。
彼らが作り出した爽やかで美しくて温かな情景・・・
空の上におられる杉村さんの元に、きっと届いた事だと思います。

4/4(土)~8(水)まで in 新モリヤビル1階
by berurinrin | 2009-04-04 22:13 | 文学座観劇感想