文学座12月アトリエの会『日陰者に照る月』

文学座12月アトリエの会『日陰者に照る月』 in 吉祥寺シアター(12/14)

作  ユージン・オニール
訳  酒井洋子
演出 西川信廣

1923年9月のアメリカ、コネチカット州
地主のジム・ティローン(菅生隆之さん)の土地を借りて農場を営むフィル・ホーガン
加藤武さん)と娘のジョージー(富沢亜古さん)。
ジョージーには弟たちがいますが、父との折り合いが悪く家を出てしまい
今は二人きりで、ジョージーが家を切り盛りしています。
そんな中、ジムとジョージーは、互いに惹かれ合っていますが
なぜかジムは、ジョージーに対しての態度が何か欠けているようです。

吉祥寺シアターでのアトリエの会の公演もこの作品で最後です。
次回からは、本拠地アトリエに戻っての公演になります。
思えば、遠くて辛いなぁと思いながら通った吉祥寺も美味しいお店が沢山あって
お友達と楽しく過す時間に彩を与えてくれた街でした。

口汚く罵り合いながらも、フィルとジョージーの父娘は、波長が合うようで
それは互いの必要性を感じているからなのかしらん?と思っていましたが
フィルと上手く生活していく為に、強がって仮面をつけて生きてるジョージーの姿がじわじわ
浮き上がってくるのは、ジムを愛するその愛の深さと大きさに圧倒されてから・・
ジムの複雑な心の壁を、陽だまりのような温かさで溶かしてゆくジョージーの優しさ・・
このチラシの真夜中と明け方のような色使いが、
二人の清らかで魂の浄化の時間であったこと・・・・
ああ・・でも、女心としては、二人の幸せな将来を暗示したかったです。
きっと、この二人の行く道にいつか重なりあう道は、やっぱり・・・ないのでしょうね。
・・・切ない。

強くて粗暴なお父さんフィルを演じられたのは、加藤武さん。
筋肉質の体型につなぎ姿は、アメリカの開拓者のようで農夫のようで
力強く人生の荒波を生き抜いてきた逞しさが漲っておられました。
片手で腕立てされる姿にもうびっくり!!

娘・ジョージーは、富沢亜古さん。登場シーンの胸を強調された衣装を着こなす
スタイルの良さに脱帽です。
それにしても、冒頭に自らの素行の悪さを告白しなからも、いやらしさを感じないのは
後半、本来の彼女の姿が現れた時でした。
その表情の違いに、涙で潤んだ瞳の美しいこと・・
ジョージーのピュアな美しさも本当に素敵でした。
富沢さんといえば、『殿様と私』のお茶目なアンナ先生も素敵でしたね(*^_^*)

ジョージーに愛されながら・・そして愛しながらも
それ以上に自分を許すことが出来なくて、苦しむジムは、菅生隆之さん。
きっとジムがもっと若く青年であったら、ジョージーへの愛を間違いなく選ぶんだろうなあ
と、思いながらも・・年齢と共に色々なものが、背にのしかかってきて・・本来なら
我慢しながらそれを払いつつ、上手くごまかして世渡りして生きて行ければよかったのに
ジムの真面目さが、酒に溺れ自分の心を傷つけていたのでしょうか?
シラノ・ド・ベルジュラック』のド・ギッシュ伯爵以来でしたが、
別れを告げる・・菅生さんの心に響く深い声が、
こんなに悲しく伝わってきてたまりませんでした。

乗馬服に身を包み、フィルとジョージーにぼっこぼこ(笑)にされてしまうのは
岸槌隆至さん演じられるステッドマン・ハーダー。
茶髪に7・3姿は、お金持ちのボンボン然としてました。
一シーンの登場ではありましたが、かわいそうな位に、父娘にいじめられた姿は
面白すぎて・・いやいや、かわいそうでした。
岸槌さんといえば、『風のつめたき櫻かな』で、縁を切った両親が
震災にあってしまい、いたたまれず訪ねてくる太一さん。両親との再会のシーンでは
労わりあう姿が、静かで温かくぬくもりを感じる感動がありました。

フィルの息子で、ジョージーの弟マイク・ホーガンは三上秀樹さん。
フィルに反抗して、他の兄達のように家を出て行くマイク。
ジョージーと話し合うも分かり合えないまま決別していくマイク。
若々しくて自分の尺度でしかまだ理解出来ないことが多くて、
だからジョージーの本来の姿もわからなくって仕方ない・・熱い青年でした。
三上さんは、研修科二年。発表会『風のつめたき櫻かな』の役柄は
なんと、本公演で川辺久造さんが演じられた乾物屋の店主・遠藤秀作さんを演じられました。
髪を白髪にしても体系がすらっとした青年なので、視覚的にも、役柄にも難しい難問を
前向きでに役に喰らいつく姿はとても好感を持って見守っていました。

12/11(木)~12/22日(月)まで in 吉祥寺シアター

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画像については事前に劇団の許可を頂いています。無断転載はなさらないで下さいね★
by berurinrin | 2008-12-17 22:46 | 文学座観劇感想